㉑『篋中集』文化13年9月以降刊行(1816年:巻菱湖40歳)巻菱湖 編著・版下書
序文:文化13年重陽 館柳湾題 / 文化12年秋 巻菱湖記
『篋中集』は菱湖の編著で、版下を文化12年秋(1815年:菱湖39歳)から書き始めています。
先行文献より
『書家の巻菱湖に「篋中集」といふ小さな編著がある。横三寸、縦五寸足らずの一册で、中身も本文十五張、序文二張、目次一張から成り、すべてを合せても二十張に充たない片々たる册子である。しかし本文は勿論のこと、序文も、目次も、更に題簽も、見返しも、悉く菱湖自らの版下で、その本文も楷書に草書を交へ書して、さすがにその名を恥かしめないものになつてゐる。しかしこの書のよろこぶべきは、ただ外形のみにあるのではない。然らば「篋中集」の内容は如何。これは私が説明するよりも、巻首に揚ぐる菱湖の題辭を以て、これに代へた方が早手廻しであらう。
「余以壬申六月出江都、周遊信越間者已四年矣、山驛水邨、往々見人問諸友詩、余爲探篋中、得廿四首、略加評語、録成小册、有問者、即以示之、昔元次山有篋中集、集開寶間詩、其數亦廿四首、故直襲其名、乙亥秋日菱湖老人記。」
(大意)私は文化九年の六月に江戸を出て信州と越後の間を周遊すること四年、山間の宿、水辺の村里を歩いて人から多くの友の詩を乞われたので、その箱の中から二十四首を撰んで評を加え、この小冊とした。唐代の文章家の元結に篋中集というのがあり、それも二十四首を納める。書名はそれによる。文化十二年秋 菱湖老人記す。
菱湖が江戸を去つた壬申は文化九年であり、この文の成つた乙亥は同十二年だつた。自ら老人としてゐるが、この年菱湖は、まだ三十九の壯齢だつたのである。「篋中集」に収められたる知友の詩はすべて二十四首で、唐の元次山の「篋中集」の選詩とその數を等しうした。然らばまたその二十四首の作者はいかなる人々だつたか。目次に據つてその名と、その詩の數とを列擧すれば次の如くである。木恭三首、北條讓一首、中野穆一首、呉其遠一首、河世寧一首、池桐孫二首、梁卯一首、大窪行一首、葛質二首、柏昶四首、高魯一首、館機六首、以上である。すなはちその人員は十二人に及んでゐるが、僅かに一首のみの人が過半を占め、詩に於いても菱湖が容易に他に許さなかつたことが知られて來る。「篋中集」所収の詩は大いにこれを嚴選したのであるが、菱湖がその各首に加へた評語にもまた見るべきものがあり、本書は單なる選集ではなくて、菱湖の著書としても擧ぐるに足るものとなつてゐるのである。』と記されています。
㉒『越後全図並佐洲図』文化14年8月刊行(1817年:巻菱湖41歳)
題辞:巻菱湖識
参考:越後全図並佐洲図(新潟県立図書館/新潟県立文書館 )
㉓『好察邇言』文政2年3月刊行(1819年:巻菱湖43歳)
序文:文政2年3月 五代秀堯撰 / 文政3月上澣 肥後宇土藩臣撰・巻菱湖書
跋文:文政2年3月3日 南総 小川撰・荏土 篁庵主人書 / 播州小野藩 勝恵之篤夫撰
㉔ 法帖『蘇軾 行香子』文政2年5月以降刊行(1819年:巻菱湖43歳)
跋文:文政2年5月 朝川善庵撰・巻菱湖書
㉕『柳湾漁唱』文政4年刊行(1821年:巻菱湖45歳)
序文:日野資愛撰・館霞舫書 / 北条霞亭撰・館霞舫書 / 文政4年秋8月 大窪詩仏撰・書 / 菊池五山撰 / 文政4年夏 葛西因是撰・永根文峯書 / 文政4年陽月 松崎慊堂撰 / 亀田鵬斎撰・大野敬書
跋文:巻菱湖識
『柳湾漁唱』は菱湖の義兄・館柳湾の60歳の記念に親族と菱湖が相談をして刊行したものになります。
㉖『羅浮幻質』文政5年3月以降刊行(1822年:巻菱湖46歳)
序文:文政5年3月 亀田鵬斎撰・野呂陶斎書 / 大窪詩仏書 / 文政5年3月 菊池五山題・巻菱湖書
跋文:文政5年 龍山張良道識 / 谷文晁
跋文の龍山張良道とは、恐らく藤堂良道かと思われます。
㉗『北遊詩草』文政5年冬刊行(1822年:巻菱湖46歳)
序文:文政5年3月 亀田鵬斎識・野呂陶斎書 / 文政5年夏 林蓀坡撰・巻菱湖書
㉘ 刷物『拓本:鼠心経』文政6年夏以降刊行(1823年:巻菱湖47歳 )
跋文:文政6年夏 松崎慊堂題・巻菱湖書 / 晁水明題・吉信天書
刷物『拓本:鼠心経』は、法帖『尚古法帖第八 弘法大師』の末巻に伝空海筆:鼠心経が追加で収められており、その後ろに松崎慊堂題・巻菱湖書による文章が記されています。ちなみに『尚古法帖第八 弘法大師』本文の跋文も松崎慊堂により文政2年に識されています。
㉙ 法帖『孫過庭 書譜』文政6年冬以降刊行(1823年:巻菱湖47歳)
跋文:文政6年冬 大窪詩仏書 / 巻菱湖書
㉚『中唐二十家絶句』文政7年冬刊行(1824年:巻菱湖48歳)巻菱湖 版下書
序文:文化10年11月 葛西因是撰・巻菱湖書 / 文政7年 朝川善庵撰・巻菱湖書
『中唐二十家絶句』は菱湖の義兄・館柳湾の著書(編録)ということもあり、菱湖が版下も手がけています。
掲載画像は全て、巻菱湖記念時代館所蔵本になります。